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2023/02/10「第42回(2022年度)全国高校生読書体験記コンクール」表彰式を実施しました。

 1月30日(月)に「第42回 全国高校生読書体験記コンクール」の表彰式が3年ぶりに東京ドームホテルで開催され、受賞者を囲んで担当の先生や、選考委員、関係者などたくさんの方々にお集まりいただき、お祝いしました。

 角田光代先生が選考委員を代表して8作品の講評を、文部科学省 初等中等教育局 主任視学官の宮崎活志先生からは祝辞をいただきました。

 最後に8人の受賞者を代表して、文部科学大臣賞の恒川凛太朗さん(三重県 鈴鹿工業高等専門学校3年)が答辞を読みました(全文は以下の通りです)。
(撮影/相馬徳之)

【答辞】

 私の家には生物の図鑑が数冊あります。小さい頃、特に気に入っていたのは爬虫類や両生類が載っているものでした。他には昆虫や魚類、哺乳類などの図鑑がありましたが、そこに鳥類についてのものはありません。その理由は単に欲しがらなかったから、興味が薄かったからです。
 しかし最近、鳥類についての本を読みました。その動機はその本の作者の書く文章が好きだったからで、鳥に興味が湧いた訳ではありません。その本を読んで私は、鳥は常につま先立ちの状態で歩いている、ということを知りました。
 そして先日、通学路でカラスを見かけました。何の変哲もない日常風景ですが、私はカラスの足を注目して視ていました。駅のホームで種類の分からない謎の鳥を見かけたときも足を目で追っていました。少し鳥に興味が湧いてきたのです。

 この感覚は、あらゆる物事で起こりうるのではないか、と思います。『図鑑を見ても名前がわからないのはなぜか?』を読んで初めてシダ植物を意識して観察した時と同じ感覚です。これまでは目に入っていただけだったものが、しっかりと視えるようになり、世界の魅力が少し増した気がしました。

 「何かを知ることを楽しむ人」というと、私がまず思い浮かべるのは、幼少期から何かが好きでしかたなくて、好きなことを追っていたらいつの間にか研究者になっていた、というような人物です。私にも知ることが面白いと感じることはありますが、そこまでの感動は自分にはないな、と感じていました。知ることこそが人生の醍醐味だなんて感性は、ごく一部の人が持つものだと思っていました。
 しかしシダ植物を探したり、鳥がつま先で歩くことを意識したりした自分は、知ることを楽しんでいた、と言えるでしょう。知ることの喜びは知ることによって加速していくのかもしれません。人生の醍醐味だなんて大層なものでなかったとしても、知ることは自分にとっての世界を豊かにしてくれて、未知の喜びをもたらしてくれると実感しています。ささやかでも確かな喜びを大切にして生きていきたいと思っています。

 ところで、私がシダ植物に興味を持ったのは、『図鑑を見ても名前がわからないのはなぜか?』を書店で見かけたのがきっかけでした。もしもあの日あの書店にこの本がなければ、シダ植物に興味を持つ事もなく、今ここにいることもなかったと思います。そう考えると、私は偶然の出会いからとても多くのものを手に入れていることになります。

 偉人の言葉に感化されて新しい夢を持ったり、漫画に影響されて新しい趣味を始めたり、新しい世界を知るのにはいろいろなきっかけがあると思います。読書とは、そんな偶然の出会いの試行回数を増やせる強力な手段であると、今は感じています。自分一人で生きているだけでは視えていなかったものが、視えるようになる、そのきっかけに本はなりえます。これも読書の大きな魅力の一つなのだろうと思います。

 

 私にとっては、今この瞬間も、読書から得たものの一つです。本日はこのような表彰式を開催して頂き、ありがとうございます。文部科学大臣賞という名誉ある賞を頂けたこと、大変光栄に思います。この経験は私の今後の人生においても忘れられないものとなると思います。 最後になりましたが、選考委員会の方々、一ツ橋文芸教育振興会の皆様、私たちにこのような機会を与えてくださったこと、心から感謝いたします。本当にありがとうございました。