表紙
中学生の読書指導

「読書指導体験記コンクール」優秀作集
 
手応えある収穫 三木 卓

 平成三年からはじめた「読書指導体験記コンクール」が、この十五回をもって終了することになった。意義ある企てだったので、まことに残念である。
 しかし、また充分な手ごたえのある収穫であったことも確かで、現場で生徒たちのために苦労しておられる先生方のさまざまな実態がここに現われ、また各方面にそのようすが生々しくつたわっていった。わたしも毎年それを拝見していて、「なるほど、そういうものか!」と膝をたたくのが常であった。
 人が、どのようにして人となっていくのか。そこにはさまざまな契機があるが、指導者と本は、二つの大きな力であり、それはこの場合のようにしばしばかさなってやってくる。わたし自身が中学生だったときのことを思いだしても、あの先生があの時こうおっしやったことが、あとで生きた、とか、先生のポケットからはみ出していた本だったので、あとで読んだ、というような思い出がいくつもある。
 それは思い出にとどまるものではない。わたしのその後の心の発展過程が、大きくそれによって決められている、というようにふりかえって思うことが、しばしばある。
 わたしは昨二〇〇五年に『北原白秋』の評伝を出した。それは、遡っていくと少年時代、母校の静岡市立城内中学の図書館に初版と同じ装頓の第一詩集『思ひ出』があったことにぶつかっていく。わたしは、この粗末な明治か大正の印刷でこれらの詩群を読んで、たいへんなショックを受けた。からだ中の血がさわぐ恐れを感じた。
 同じ頃、わたしは多くのすぐれた国語教師たちに出会った。かれらは、熱心な文学青年で、相手が中学生なのに、教室でも高邁な文学論をどんどん披瀝した。わたしはそのほとんどを理解できなかったが、そこに大きく深い未知の領域があることを感じ、それを理解できるようになりたいとねがった。
 そのうちの一人に、北原白秋を深く愛している教師がいた。かれが旧制松本高校の校友会誌に書いた「北原白秋論]を、見せてもらったことがあったが、とてもまぶしかった。
 それから半世紀の余たって、わたしは「北原白秋」を書きあげたのだった。中学の図書館に『思ひ出』がなかったら、松本高校出身の岩本柘一先生がいらっしゃらなかったら、「北原白秋」の評伝を書くようなめぐりあわせになっていただろうか。
 教育とは、人と人の出会いであり、ぶつかりあいである。生徒が感じ受けとめるものは、教場に限定されたものからだけではなく、その教師の全人的なもの、その行住坐臥すべてからである。
 やがて教師と生徒はわかれていくが、その時、二人のあいだの交流の象徴として、数冊の本が残るとしたら、それこそが読書指導の結果だ、と思う。
 今度集英社が、「読書指導体験記コンクール」の中学校の部を、十五年分まとめて一冊にして世に出す、という。この、先生方の汗と血にまみれた苦闘とよろこびの記録が、まとまった形で教育関係者のみならず、多くの関心ある人々によって読まれ、これからの日本の文化を考えていくときの足場のひとつとして役立っていくことをねがう。また十五年にわたってこのような企画を続けて下さった集英社に敬意を表する。
2006年5月30日 
目  次 Contents  (全232ページに以下の内容が収録されています)
 '91 第1回優秀作(平成3年度)
 ・手作りの読書指導
東京都杉並区立宮前中学校  池田茂都枝
 ・生徒による読書紹介「みんなも読んでみませんか」
東京学芸大学附属大泉中学校  石川 直美
 ・私の読書指導体験記
熊本県熊本市立託麻中学校  北島 照明
 ・へき地小規模校での読書指導のとりくみ ―委員会活動を中心に―
徳島県井川町立井川中学校  山下ちづる
 【審査委員】 三木  卓 (作家)
  北川 茂治 (文部省初等中等教育局視学官)
  長嶋 達夫 (全国高等学校長協会会長)
 '92 第2回優秀作(平成4年度)
 ・読書好きの生徒を図書館に呼び込む
福井県武生市立武生第二中学校  石原 淳子
 ・今、この時に本に親しもう ―学校裁量の時間を利用した読書指導―
兵庫県高砂市立竜山中学校  田中 英之
 ・読書単元の学習 ――1つの試み
鳥取県大栄町立大栄中学校  福井真理子
 ・本のすばらしさを伝えるために
静岡県静岡市立服織中学校  牧野 雅子
 ・満員になる図書室を目指して
大阪府大阪市立大和川中学校  宮本 光章
 【審査委員】 三木  卓 (作家)
  北川 茂治 (文部省初等中等教育局視学官)
  牧野 禎夫 (全日本中学校長会会長)
 '93 第3回優秀作(平成5年度)
 ・障害を持つ生徒への読書指導について
兵庫県川西市立清和台中学校  今北眞奈美
 ・学校に図書館を取り戻す
大阪府大阪市立梅南中学校  木村 威英
 ・「抜き書き集」を作る
沖縄県那覇市立寄宮中学校(代表)  金城 康隆
 ・友達にすすめる1冊にオリジナルの帯をつけよう
滋賀県水口町立城山中学校  森 真紀子
 ・鍵をかけない図書館をめざして
長野県諏訪市立諏訪西中学校  矢島喜久雄
 【審査委員】 三木  卓 (作家)
  市原 菊雄 (文部省初等中等教育局視学官)
  木山 高美 (全日本中学校長会会長)
 '94 第4回優秀作(平成6年度)
 ・生徒が主役の読書指導
福岡県水巻町立水巻中学校  赤坂 雅裕
 ・私が薦めるこの1冊 ―読書指導に生かすコンピュータデータベースソフト―
長崎県佐世保市立中里中学校  近藤  真
 ・いつも感性の刺激を
大阪府牧方市立杉中学校  多田  浩
 ・いつも読みかけの本を
三重県長島町立長島中学校  寺尾 雅子
 ・私の読書指導
神奈川県小田原市立鴨宮中学校  広井三枝子
 【審査委員】 三木  卓 (作家)
  市原 菊雄 (文部省初等中等教育局視学官)
  中  進士 (全日本中学校長会会長)
 '95 第5回優秀作(平成7年度)
 ・連携する読書指導
東京都杉並区立中学校図書館部  宮前中学校 池田茂都枝/廣畑環/友部満  
松ノ木中学校 石岡里志/岡田光彦  
中瀬中学校 安藤文子/伊藤美佐子  
大宮中学校 日高真理  
 ・集団読書を通して
山形県八幡町立八幡中学校  出嶋 睦子
 ・出会いは図書館探検から
愛媛県新居浜市立東中学校  戸田美喜子
 ・私は読書の道案内役
東京都八王子市穎明館中学校  半藤 英明
 ・「本の紹介」こそ読書指導の原点
福岡県大牟田市立米生中学校  渡辺 元子
 選評  【審査委員】
 ・いかに相手から引き出すか
作家  三木  卓
 ・情熱が読書指導の一番の近道
文部省初等中等教育局視学官  市原 菊雄
 ・生涯学習社会における読書指導を
全日本中学校長会会長  中  進士
 '96 第6回優秀作(平成8年度)
 ・科学的思考力養成の知恵袋は、科学読み物で
愛知県安城市立東山中学校  石原 茂樹
 ・いろいろな表現活動を楽しもう
福岡県福岡市立三筑中学校  井上 光枝
 ・私の愛読書
東京都足立区立第十六中学校  落合伊佐男
 ・「図書談義」に花咲いて
岐阜県八百津町立八百津中学校  細江 隆一
 ・本当の自分と出会うための読書を
静岡県静岡市立東中学校  牧野 雅子
 選評  【審査委員】
 ・多様な登り口から
作家  三木  卓
 ・生きる力を育てる読書指導
文部省初等中等教育局視学官  佐伯 眞人
 ・学校の多様な活動を通しての読書指導
全日本中学校長会会長  佐野 金吾
 '97 第7回優秀作(平成9年度)
 ・最後のオリエンテーション
滋賀県山東町立大東中学校  伊藤 尚典
 ・伝記を読んで、人間を知ろう
大阪府吹田市立山田東中学校  築田 光雄
 ・心に生き続けた1冊の絵本から
広島県広島市立観音中学校  宮崎 恭子
 ・「読み聞かせ」を取り入れた朝読書
静岡県静岡市立南中学校  村上 淳子
 ・読書による職場体験
山梨県竜王町立玉幡中学校  矢巻ゆき江
   新井 晴美
 選評  【審査委員】
 ・人間対人間の指導
作家  三木  卓
 ・教師の役割の大きさ
文部省初等中等教育局視学官  佐伯 眞人
 ・豊かな読書環境を!
全日本中学校長会会長  佐野 金吾
 '98 第8回優秀作(平成10年度)
 ・私の読書指導
愛知県名古屋市立楠中学校  飯田 浩幸
 ・自分にとっての「名作」との出会い
東京都武蔵村山市立第四中学校  熊倉 峰広
 ・読書記録と作文のファイル
神奈川県慶應義塾普通部  鈴木 淑博
 ・輪を広げる読書指導の一考察
鳥取県鳥取市立東中学校  福田 操恵
 ・ひとりの読書人として
大阪府枚方市立第二中学校  村上 靖子
 選評  【審査委員】
 ・読書人であることの大切さ
作家  三木  卓
 ・教師と生徒のつながり
文部省初等中等教育局視学官  佐伯 眞人
 ・最終審査を終えて
全日本中学校長会会長  安齋 省一
 '99 第9回優秀作(平成11年度)
 ・卒業生の置き土産
埼玉県入間市立東町中学校  小金澤 豊
 ・読書指導体験記=テストで!
愛媛県新居浜市立南中学校  新川和津子
 ・読書を通じたカウンセリング活動の実践
静岡県清水市立第二中学校  長澤 友香
 ・私と読み聞かせ
大阪府大阪市立大正東中学校  松川佐登美
 ・新聞と歳時記と
新潟県新潟市立小新中学校  三村 孝志
 選評  【審査委員】
 ・教育は生きもの
作家  三木  卓
 ・読書のきっかけをどうつくるか
文部省初等中等教育局視学官  佐伯 眞人
 ・選を終えて
全日本中学校長会会長  安齋 省一
 '00 第10回優秀作(平成12年度)
 ・「人から人へ伝わる読書」
愛知県名古屋市立扇台中学校  江口 典子
 ・『非行少年にこそ読書が必要』
長野県飯島町立飯島中学校  加藤 敬一
 ・心の震えを共有したい
新潟県上越市立雄志中学校  佐藤可奈子
 ・問題意識に基づいた読書 〜「新聞のコラム」を使って〜
岡山県岡山市立香和中学校  白神由紀江
 ・『グループ読書でコミュニケーション』
東京都西東京市立青嵐中学校  松川 和子
 選評  【審査委員】
 ・心と心との関係を
作家  三木  卓
 ・相互作用から得られる喜び
文部科学省初等中等教育局視学官  嶋野 道弘
 ・読書指導体験記コンクール審査にかかわって
全日本中学校長会会長  高木 清文
 '01 第11回優秀作(平成13年度)
 ・人を通して本と出会う
東京都八王子市立松木中学校  飯森 有子
 ・読書、この魅力的な楽しみを
大阪府寝屋川市立友呂岐中学校  田中 健二
 ・学校で取り組んだ読み聞かせ
   ――単元「生きるってなんだろう」の実践を通して――
茨城県下妻市立東部中学校  奈良部和子
 ・できるところから――読書指導の出発点――
神奈川県川崎市立柿生中学校  橋本 悠子
 ・読書に親しむ次代の中学生を、読書を伝える次代の大人を……
熊本県嘉島町立嘉島中学校  宮地美登里
 選評  【審査委員】
 ・いかにひきだすか
作家  三木  卓
 ・共鳴を起す
文部科学省初等中等教育局視学官  嶋野 道弘
 ・読書指導体験記コンクール審査にかかわって
全日本中学校長会会長  星  正雄
 '02 第12回優秀作(平成14年度)
 ・保幼小中連携で十五年間の読書運動へ
福岡県福岡市立田隈中学校  甲斐由美子
 ・読書は心の神様
岡山県岡山市立藤田中学校  川畑真由美
 ・「読書感想文を書く」生徒の見守り手としての楽しみ
広島県福山市立大門中学校  小山 和子
 ・当たり前のことを当たり前に
岡山県長船町立長船中学校  関  薫
 ・「先生、面白いの入った?」――図書室からのアプローチ――
福岡県行橋市立仲津中学校  九十九真知子
 中野 智子
 選評  【審査委員】
 ・本を読む、という環境
作家  三木  卓
 ・読書指導を推進するもの
文部科学省初等中等教育局視学官  嶋野 道弘
 ・熱意と工夫で活かす読書の力
全日本中学校長会会長  星  正雄
 '03 第13回優秀作(平成15年度)
 ・「継続は力なり」……長編読書の試み
  ――吉村昭著『大黒星光太夫』を読みつづける――
岡山県岡山理科大学附属中学校  尾崎 聡
 ・中学生だってお話し好き
鹿児島県国分市立舞鶴中学校  駒倉 正子
 ・「物語」を「物語る」読書を目指して
鹿児島県阿久根市立三笠中学校  松元 智宏
 ・図書室を利用した読書指導の三年間
愛知県豊川市立西部中学校  山口 義信
 ・みんなの心の「青い空」
宮城県仙台市立第一中学校  山田あつ子
 選評  【審査委員】
 ・読み聞かせの大切さ
作家  三木  卓
 ・着想を生かす
文部科学省初等中等教育局視学宮  嶋野 道弘
 ・生徒の読書量を増やしたい
全日本中学校長会会長  小野 具彦
 '04 第14回優秀作(平成16年度)
 ・自慢の図書館
岩手県盛岡市立城東中学校  伊藤 明美
 ・「贈る言葉」に託して
奈良県香芝市立香芝中学校  岡 美穂
 ・朗読劇を取り入れた授業実践を通して知った読書の楽しさ
岡山県吉井町立吉井中学校  北川久美子
 ・本と人をつなぐ読書環境を整えるために―四年間の歩み―
静岡県焼津市立小川中学校  小宮 幸代
 ・中一生の読書指導 本が奏でる生徒の和音
愛媛県愛光中学校  徳永 康樹
 選評  【審査委員】
 ・先生の姿が見える
作家  三木  卓
 ・私の読書指導論
文部科学省初等中等教育局主任視学官  嶋野 道弘
 ・熱意と創意溢れる実践
全日本中学校長会会長  藤崎 武利
 '05 第15回優秀作(平成17年度)
 ・ストーリーテリングで読書への誘いを
愛知県美浜町立野間中学校  石川 幸子
 ・授業は本の「試食」の時間
東京都共立女子第二中学高等学校  伊藤久仁子
 ・読書から始まるコミュニケーション
神奈川県横浜市立森中学校  川辺 明美
 ・「しろばんば」を読む一年
愛媛県愛光中学校  佐藤 昭子
 ・比べ読みで深め広げる中一国語・古典の授業
  ――「竹取物語」から「今昔物語集」ヘ――
北海道札幌市立月寒中学校  三上 久代
 選評  【審査委員】
 ・内なる言葉を育てる
作家  三木  卓
 ・読書指導は滋味あるすべての教育活動展開のかなめ
文部科学省初等中等教育局視学官  田中 孝一
 ・読書考
全日本中学校長会会長  大橋 久芳
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