第36回「全国高校生読書体験記コンクール」入賞者発表
 このコンクールは、公益財団法人 一ツ橋文芸教育振興会が各地の新聞社のご協力をいただき、「高校生のための文化講演会」とともに毎年実施しているもので、多くの高校生ができるだけたくさんの本と出会うきっかけをつくることを目的としています。第36回は、全国47都道府県から403校の参加があり、応募作品は112,576編となりました。
 選考にあたっては、まずそれぞれの高校において5編を選出し、各都道府県ごとに集計後、後援の新聞社が選定した選考委員により優良賞と入選作が選ばれます(北海道は高等学校文化連盟図書専門部会、青森県と岩手県は高等学校文化連盟文芸専門部会が選考)。その後、各県を代表する「優良賞」作品の中から、昨年12月6日、都内の東京ドームホテルにて開かれた中央選考委員会の席上、8編が「中央入賞」に選定されました。
【中央選考委員】
(敬称略)
辻原 登
(作家)
穂村 弘
(歌人)
角田 光代
(作家)
清原 洋一
(文部科学省初等中等教育局主任視学官)
角  順二
(全国高等学校長協会)
【表彰式】 2017年1月30日(月)午前10時半より、東京ドームホテルにて

各受賞者には【賞】として次の賞品が授与されます。また受賞者、入選者の在学校には「学校賞」が授与されます。
【文部科学大臣賞】
1編  
賞状・楯・記念品
【全国高等学校長協会賞】
2編  
賞状・楯・記念品
【一ツ橋文芸教育振興会賞】
5編  
賞状・楯・記念品
【優良賞】
39編  
賞状・記念品
【入選】
187編  
賞状・記念品
中央入賞者在学校には「学校賞」として楯および「集英社文庫100冊セット」を贈呈いたします。
優良賞入賞者在学校には「学校賞」として「集英社文庫50冊セット」を贈呈いたします。
入選入賞者在学校には「学校賞」として「集英社国語辞典」を贈呈いたします。
【主 催】
公益財団法人 一ツ橋文芸教育振興会
【後 援】
文部科学省・全国都道府県教育長協議会・全国高等学校長協会・集英社
北海道新聞社・東奥日報社・岩手日報社・河北新報社・秋田魁新報社・山形新聞社・福島民報社・産経新聞社・上毛新聞社・神奈川新聞社・山梨日日新聞社・信濃毎日新聞社・新潟日報社・北日本新聞社・北國新聞社・福井新聞社・岐阜新聞社・静岡新聞社・中日新聞社・京都新聞・神戸新聞社・山陰中央新報社・山陽新聞社・中国新聞社・徳島新聞社・四國新聞社・愛媛新聞社・高知県教育委員会・高知新聞社・西日本新聞社・佐賀新聞社・長崎新聞社・熊本日日新聞社・大分合同新聞社・宮崎日日新聞社・南日本新聞社・琉球新報社
【地方主催】
北海道高等学校文化連盟図書専門部会・青森県高等学校文化連盟文芸専門部会・岩手県高等学校文化連盟文芸専門部会

受賞された皆さんと選考委員で記念撮影
受賞された皆さんと選考委員で記念撮影(2017年1月30日)
文部科学大臣賞を授与される武田萌さん 祝辞を述べられる文部科学省の清原洋一先生
文部科学大臣賞を授与される武田萌さん 祝辞を述べられる文部科学省の清原洋一先生
中央選考委員を代表して穂村弘先生が講評 表彰式後に開催された激励会での受賞者のみなさん
中央選考委員を代表して穂村弘先生が講評 表彰式後に開催された激励会での受賞者のみなさん

中央入賞者

 【文部科学大臣賞】
 沖縄県立那覇国際高等学校 3年 武田 萌 作品を読む
 ゼノフォビアと難民問題
(体験書籍『路上のストライカー』マイケル・ウィリアムズ・作、さくまゆみこ・訳)

 【全国高等学校長協会賞】
 筑波大学附属聴覚特別支援学校高等部 1年 渡会由貴 作品を読む
 見えない魔物との付き合い方
(体験書籍『「空気」の研究』山本七平・著)

 【全国高等学校長協会賞】
 広島県立大門高等学校 3年 國岡志帆 作品を読む
 「二番目の悪者」が笑うこの世界
(体験書籍『二番目の悪者』林木林・作、庄野ナホコ・絵)

 【一ツ橋文芸教育振興会賞】
 北海道札幌南高等学校 2年 川岸夕夏 作品を読む
 地図を歩く
(体験書籍『地図の中の札幌』堀淳一・著)

 【一ツ橋文芸教育振興会賞】
 静岡県立掛川西高等学校 2年 松下ひかり 作品を読む
 山に魅せられて
(体験書籍『孤高の人』新田次郎・著)

 【一ツ橋文芸教育振興会賞】
 兵庫県立香寺高等学校 1年 西岡美空 作品を読む
 言葉を超える「お話」
(体験書籍『きよしこ』重松清・著)

 【一ツ橋文芸教育振興会賞】
 高知学芸高等学校 2年 公文琴音 作品を読む
 私の在り方
(体験書籍『超訳 ニーチェの言葉U』フリードリヒ・ニーチェ・著、白取春彦・編訳)

 【一ツ橋文芸教育振興会賞】
 宮崎県立宮崎西高等学校 1年 増田悠斗 作品を読む
 「死」によっても失われないもの
(体験書籍『夏の庭─The Friends─』湯本香樹実・著)

  【答辞】

文部科学大臣賞 武田 萌さん
(沖縄県立那覇国際高等学校 3年)

 

 この度はこのような盛大な表彰式を私たちのために催してくださり、本当にありがとうございます。素晴らしい賞をいただき、驚きと喜びの気持ちでいっぱいです。
 本の中での経験と自分の体験が結びつくことによって、見えている世界が変わったり、広がったりする、という経験はみなさんにもあることだと思います。今回私の世界を大きく変えてくれたのが、この『路上のストライカー』という本でした。主人公のデオは内戦により、母と祖父を失い、兄とともに故郷ジンバブエから南アフリカを目指します。ですが外国人である彼らに向けられるのは、軽蔑や憎悪の感情でした。この本を初めて読んだのは高校二年生のときです。当時は主人公デオの難民としての厳しい生活に同情し、気の毒だと思うだけで、それは完全に本の中の話であり、私の世界とは別物だと考えていました。
 しかしその後、高校三年生の夏から一年間スウェーデンへと留学したことで、本の中のような世界が現実にあることを知りました。スウェーデンは移民・難民の受け入れに積極的な国です。町ではよくムスリムの人たちを見かけ、学校にも様々な人種の生徒がいました。スウェーデンに来る前は、私はどちらかというと難民に対して否定的でした。日本で見るニュースには難民が起こす暴動や、難民への不満を語る現地の人たちが映り、ネガティブなイメージを持っていました。その中で私は、二年前スウェーデンに難民としてやってきたシリア人の男の子と友達になりました。彼は自分の故郷シリアについて、「戦争があるから帰りたくないんだ」と語り、私は偏見を持っていた自分自身を恥ずかしく思いました。同じスウェーデンに来た外国人でも、私には帰ることができる平和な故郷がありました。しかし彼は、彼ら難民は一生をその地で過ごす覚悟をしなければならないのだと痛感した出来事でした。それからしばらく経ち、隣町で移民の子供が殺されるという事件が起きました。それは移民の受け入れに反対するスウェーデン人による犯行で、私はショックを受けるとともに、移民だからという理由で命が奪われるという事実に憤りを感じました。
 私は帰国後もう一度この本を読みました。すると初めて読んだときとは、全く別の意味を持って私の胸に迫ってきました。そして、どうしたら違う国の人たちと共に暮らしていけるのだろうと、身近な問題として考えるようになりました。その疑問に対して私なりに出した答えが、自分と違う人たちをくくりで見るのではなく、一人の人間として尊重するということです。外国人、移民、難民、などといった枠でひとまとめに考えるのではなく、先入観を持たずに一人の人として接することこそが必要なのだと思います。私は将来、移民・難民問題解決に携われるような仕事がしたいと思っています。特に、民族間の相互理解を進めるような事業に取り組みたいと考えています。それは私自身の体験から、枠にとらわれず相手を理解するためには、対話の場を増やすことが最も大切だと感じたからです。
 本を読むだけ、何かを体験するだけ、のどちらかだけでは得られないものを今回私は得たような気持ちになりました。読書と体験が繋がることで、こんなにも自分の考え方や想い、行動が変わるものなのだと知りました。きっとこれが読書の醍醐味なのだと感じます。同じ本でも読む時が変われば、感じ方も変わり、その本が持つ意味も変わってくる。そのような本に出会えて良かったと思います。
 グローバル化はますます進み、世界でも日本でも身近に外国人がいる機会が増えてきました。しかし現在、それがナショナリズムの高まりや、移民・難民排斥運動の広がりに繋がっているのもまた事実です。その流れに流されることなく、相手が誰だとしても一人の人間として尊重し共に生きていくことができる社会であってほしいと願います。
 最後に受賞者を代表して、それぞれの読書体験記の完成に向けて支えてくださったみなさま、読書体験記に込めた思いを評価してくださった選考委員会の方々、私たちにこのような表現の場を与えてくださった一ツ橋文芸教育振興会のみなさまに感謝の意を表し答辞といたします。

 

【事務局より】
公益財団法人 一ツ橋文芸教育振興会は、読書体験記コンクールと並んで、全国の高等学校に作家や文化人、学者の先生を派遣して「高校生のための文化講演会」を行っています(年間70校以上)。講演ご希望の学校がありましたら、コンクールの応募先ないしは後援の各新聞社にご希望をお寄せください。
 

入賞者一覧 選評 応募要項
 
 
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